大判例

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熊本地方裁判所 昭和27年(タ)25号 判決

原告 中津定憲

被告 中津多恵

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告は原告と同居せよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として「原被告は昭和二十六年七月二日婚姻し原告方に同居して来た夫婦であるところ、被告は同二十七年五月四日病気と称してその肩書住所の実家に立帰つたまゝ帰宅しない。斯の如きは夫婦の同居義務に違反するもので原告にとつてまことに迷惑の次第であるから被告に対し原告方に帰宅同居すべきことを求めるためさきに熊本家庭裁判所に調停申立を為したがこれに応じないので止むなく本訴請求に及んだ」と陳述し、被告の答弁事実を否認し、原告は結婚挙式費用婚姻中の生活費等の外被告の手術費三千九百二十円を含め合計十九万三千五十五円を支出していると述べた。<立証省略>

被告は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として「原告主張事実中原被告の婚姻の点並びに被告がその実家に居住している点はこれを認めるがその余の事実は否認する。右婚姻にあたつて原告は被告がその先夫安川正之助との間の長女安川振子(十五歳)次女同智鶴子(九歳)を連子とすることに同意した上、中流以上の資産を有するから同人等を原告の責任に於て養育すること、原告の次男は病気中であるが単なる栄養失調であるから何ら懸念はないこと、原告の年長の子供達は別荘を建てて別居させること、家計一切を被告に委ねそのため差当り金二十万円を手渡し置くこと等を約束していたのであるが、右約束は口から出まかせであつたので結婚後はこれを実行するはおろか家計は原告が握つて被告に現金を扱わせず後に至り昭和二十七年二月から四月迄の三ケ月間毎月六千円の家計費を支給したことがある以外被告に生活費を手渡したことがなく、日用品さえ碌々支給せず被告の長女振子にも学用品を買与えないという風でその日常の行動は吝嗇を極めたものであるのみならず、性格も変態的で日夜被告を酷使し猜疑嫉妬の念が強く酒乱に及んでは狂暴の限りをつくし、被告の長女振子の面前でも平気で被告に対し猥褻の行為に出でるという風であるため止むを得ず振子を他家に預けるの外なきに至り、次女智鶴子も原告が単なる栄養失調に過ぎぬと称していたその次男の開放性肺結核のため感染せしめられ実家に預けるの止むなきに至つているが右智鶴子の治療費も支出しようとしないのみならず被告自身も健康がすぐれず実家に帰り医師の診断を受けたところ胎児が胎内で腐敗しているとのことでその摘出手術を受けたが原告はその費用の一部として金三千九百二十円を支出した以外放置して顧みない。かような次第であるから被告は原告の妻としてこれと同居することはできないので別訴により原告との離婚を請求している次第であつて本訴請求には応じられない」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告と被告とが原告主張の日に婚姻した夫婦であることは甲第一号証戸籍抄本により明かである。ところで改正前の民法に於ては妻は夫と同居する義務を負い妻がこの義務に違反した時は人事訴訟手続法の規定するところに従い夫は妻に対し同居を求める訴を提起することができたのであるが改正後の民法は其の第七百五十二条に於て夫婦の同居義務を平等の立場に於て規定すると共に家事審判法はこれを家庭裁判所の乙類審判事件と定め、同時に同法施行法は従前の人事訴訟手続法を改正し同法中夫婦同居の訴に関する規定を削除したのであつて、実体法である民法中には別段右同居請求につき家庭裁判所に審判を求むべき旨を規定してはいないけれどもこれを訴訟事項とするか否かの問題は手続法である家事審判法の規定に譲つたものと解されるから、結局同法の施行により昭和二十三年一月一日以降は夫婦の同居請求については家庭裁判所の審判事項として取扱われ訴訟事件として地方裁判所に提訴する途を閉されたものと解するのが相当である。果して然らば本件訴は不適法として却下すべきものであるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 浦野憲雄)

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